Does she Walk Alone ? -彼女は一人で歩くのか?

2015年10月20日に講談社タイガから発売された新シリーズ。
文庫書き下ろし。次作以降の予定が既に決まっている。


2巻目「魔法の色を知っているか? What Color is the Magic ?」(発売日:'16.1/19)

3巻目「風は青海を渡るのか?」 英語タイトル未定




【 感 想 】

一言で言うと「どきどきする」です。
スリリングでエキサイティングなシーンが多く、

スピード感があるのでテンポ良く読むことができます。

森先生なりの未来の世界が描かれていてとても興味深いです。

ミステリではなくSFです。


途中で出てくる作品の重要なキーとなる文章があるのですが、、、
おとぎ話のような、呪文のような、童謡のような、、そんな一文ですがこれがなんと、
"すべてがFになる"に出てくるRed Magicを連想させるような内容でして・・

ここでもゾクっとするようなドキドキ感が感じられました。続きが楽しみです。


まだ読んでない方は四季シリーズと100年シリーズを先に読むと更に楽しめます。
少なくとも"すべてがFになる"だけでも先に読むことを強くおすすめしますが、
SMシリーズ全て読むのはちょっと大変だと思うので、そこはお任せします;;
ただ、森先生の作品は出版順に読むと、より楽しめると言われています。

私も賛成です。



【 考 察 】

先ほど既に書きましたが、、赤い魔法っていうのは、
"すべてがFになる"に出てきたRed Magicですよね、、?


そして本に浮かび上がった文章をネットで検索した際に出てきたあの少女が
ミチルと名乗った瞬間からもうドキドキ。。これは、あのミチルですか。


だとすると、ハギリがセンターを抜け出した先の飲食店で出会った女性、、
目が青いという描写の時点で真賀田四季だと、皆さんも気がついたはずです。。
ウォーカロンというタイトルから既に

真賀田博士が出てくるのかなぁと予想はしていましたが。


作中で真賀田博士はネットウェア、人工知能などに多大な影響を与えた科学者として

2世紀も昔の歴史上の人物とされています。
すると作品に出てくる博士は、、一体何者なのか気になります。
人工細胞を移植した人間なのか、ウォーカロンなのか。私は前者だと思います。


真賀田博士って、死に対する興味はないと言ってはいるものの、
生に対する執着は結構あるように感じられます。
真賀田博士の考える生="脳が生きていて思考をする" なので、
全身ウォーカロンの身体に脳だけが本人のオリジナルで、人工細胞を移植して
半永久的に再生させている。という可能性もありますね。


脳への人工細胞の移植は倫理的にタブーだとされているらしいですが、
実際には真賀田博士の時代には既に自らにその処置を行っていたとか、、
もうそうなると本物の神ですね。


なぜ、熊なのか。。

真賀田博士と動物を関連付けると熊なのは分かりますが。
過去作品でも、身近にあった動物のぬいぐるみ等は全てテディベアでした。
しかし、森先生には「その辺については特に凝りがない」と言い切られそうですが、、


2巻目は1月に発売されるようで、私は既にアマゾンさんで予約済みです。
次回はハギリが本物の人間の子供に出会う為に行動するようですね。
これで、近似式が完成されるのでしょうか。
ハギリの命を狙う組織についてももう少し詳しいことが分かりそうだし、
不妊の原因もハッキリするのでしょうか。楽しみです、、!



【 人口細胞と人工知能の歴史 】


▼▼約200年前
ウォーカロンの生みの親、真賀多四季の時代。
ウォーカロンは、まだ世の中には普及しておらず

四季が独自に開発して使用していた。


▼▼約100年前
ウォーカロンと呼ばれる自立型ロボットが普及(人工知能の飛躍的進歩)
人間の肉体の85%の部位が機械に代替可能(サイボーグと呼ばれたが後に差別用語となり使えなくなる)


▼▼約50年前
人口細胞が広く実用化され始めた。
生きた本物の細胞を培養して肉体を補う為、
体内の元々の細胞と同じように新陳代謝を繰り返して普通に生きていくことができる。
サイボーグの技術はこの頃から消える。しばらくして、人口細胞が実用化され出すと、
それに人口知能をインストールする研究が極秘裏に行われた。
倫理的問題としてタブーであったが、この段階でウォーカロンは限りなく人間に近づいた。


▼▼物語中の現代(おそらく2200年代)
人口減少が、世界的問題になる。20世紀後半の人口の約1/4にまで減少。
人間が体内に人口細胞を移植するようになったのがきっかけで子供ができなくなった為だが、
何が原因で生殖機能が失われたのか明らかになっていない。
人間が生まれない為、ウォーカロンの普及が更に進行していく。
アフリカなどの人口細胞に頼れない途上国では一部、人間の子供が産まれているという報告が有る。


【 物語の世界設定 】

・舞台は2世紀後の日本(首都は札幌)
・人口減少が急激に進行し、世界人口は1/4にまで減少。
・ウォーカロンという本物の肉体を持つ人工的な人間が社会で共に暮らす。
・人口細胞の普及により、世界の平均寿命は約190歳
・同じ人類が何世紀も行き続けるという事例がないので精神崩壊などの問題が懸念されている。
・人類絶滅が現実化してきており、テロや戦争がなくなった。一部の武装組織は有り。
・人類の人口細胞化により、生殖機能が失われ、子供がいなくなった社会。いてもそのほとんどは
教育中のウォーカロンであり、人間の子供は居ないに等しい。
・生粋の日本人が珍しい時代


【ウォーカロンとは】

人間によってつくられた養殖の人間。
本物の生きた細胞を培養装置で育て、生まれた後、
子供の頃から社会で暮らす為の様々な教育プログラムを受ける。


( 特 徴 )

・人間でないことの本当の意味を知らない。
・身の危険などの自らの社会的価値に拘らないと言われている。
・子供を生むことはできないが、今後新型として出てくる可能性あり。
・人口知能は元々はコンピュータなので、計算は速いがインスピレーションは苦手。
・学習し、癖があり、適度に失敗をし、感情を持っている。考えたり、とぼけたり、
思い出したりするよう遅延回路を組み込まれた事によって、より人間らしく作られている。
・人間とまったく見分けが付かない。(そのためにハギリの判別技術が役立つ)
・検死での人間かウォーカロンかの判別は不可能なほど肉体的には人間と相違ない。
・人間よりも完璧な人間である為、争いを好まず捨て身にならない穏やかな性格を受け継ぐ。


【 ハギリ・ソーイ 】約80歳

「思う」という行為の現象について、科学的な証を判別し、
人間とウォーカロンを見分ける技術を開発した。近似式と言われ、
未発表だが学会誌に載る予定。この研究によってある組織から命を狙われるが、
詳しい理由は不明。次作で明らかになるのかな、、?


【 アリチ・ユウヤ 】約160歳

医学領域で人口細胞の世界的権威。
クリーンな細胞を作り出す技術の最終段階を手がけ、ほぼピュアな細胞を実現させた。
それにより先天性疾患も癌もなくなり、再生すれば人は何百年も生きられるようになった。
人間が人口細胞を体内に取り入れ、寿命を伸ばすようになった頃から始まった問題、つまり
人間から子供が生まれなくなった原因について密かに研究を続け、ある結論にたどり着いたが
その研究の為に命を狙われる。一度は毒殺されるものの身体は生きていた為、外科的手術によって命を繋いだ。


【 チカサカ 】

生物学者で、日本動物園の園長。
ウォーカロン関連メーカが作る国際協議会の委員でもある。
ハギリの命を狙う組織についてウォーカロンのメーカから脱退した者の犯行だと言及している。
ハギリにロシア語で書かれたクマの生態の本を渡す。


【本に浮かび上がった謎の文章】

熊さんが襲ってくる。
恐ろしい声を上げて迫ってくる。
もう駄目だ。
でも、少女は言いました。
「黒い魔法を知っている?」
「そんなものは恐くないさ」と熊は言いました。
「白い魔法を知っている?」少女は続けて尋ねました。
「そんなものはなんでもないさ」と熊は笑います。
「じゃあ、赤い魔法を知っている?」
それを聞いた熊は、そのまま動かなくなりました。
そして、砂が崩れるように、地面に落ち、散ってしまったのです。


【 お気に入り抜粋 】


P13
「さあ、どこと言われても……。何を探しているのですか?」
「殺傷能力のあるメカニズムです」
「へえ……。それくらいなら、どこにでもあるでしょう。使い方次第では、たいていのものは殺傷能力があります」


P29
「先生はどちらへ?」
「いや、トイレに」とドアを指さした。
「ここは安全かな?」
「大丈夫です」
「え、調べたの?」
「調べました」
「男性用だよ」
「見ればわかります」
その返事の不気味さを噛み締めながらトイレに入った。


P33
「人間を信じるのは、人間の代表的な弱点の一つです」


P52
「温泉? ああ、聞いたことがあります。ようするに風呂でしょう?」
「天然の湯が出るんだ」
「天然だろうが人工だろうが、湯は水を温めたものです」


P60
「コミュニケーションのサインとしては、エネルギィが大きい。笑うことは、コストパフォーマンスが悪いといえます」
「そうそう。それは、大人の意見だ」
「大人ですから」


P88
「これから、どうするの?」とまず聞いた。「ウグイ・マーガリン」
「あちらへ歩きます」彼女は指をさした。森林の方向だ。
「マーガリィです」


P94
人は減っているのだから、言い方は悪いが、養殖された人間も必要になる。
過去においても、人間以外の家畜などでは、それが許された。それらを食べて、人間は生きてきたのだ。


P101
この「小学生でも知っている」という慣用句は、この頃聞かなくなった。
なにしろ、小学生だった頃の自分を、多くの人が忘れかけているし、現実に小学生が激減しているからだ。
その年齢の子供は、ほぼ間違いなく社会研修中のウォーカロンだ。


P106
「それは、肉体のあらゆる部位に対しても言われてきた。生物は複雑なものだ。これらを作ることができるのは神のみだ、とね。だけど、結局は、単なるタンパク質だ。化合物なんだ。その仕組みが明らかになれば、いたって単純だと言える。単純でなければ、細胞は再生できない。単純だからこそ、これだけ膨大な数が集まっても、だいたい同じものになる。複雑だと思い込みたい傾向を人間は持っているんだ。自分たちを理解しがたいものだと持ち上げたい心理が無意識に働く。でも、誰もがだいたい同じように怒ったり笑ったりしているんじゃないかな」


P119
「武器はもっている?」
「危険を感じた場合には使用できる許可も得ています。レベル・ワンの」
「レベル・ワンというのは?」
「人間を殺しても良い、というレベルです」
「あそう……」頷いたが、言葉が出なかった。
レベルいくつまであるのかきこうと思ったが別のことを考えることにした。


P149
この頃はみんなそうなんだ。結婚っていうのも、古くさい習慣というか、伝統のような儀式になってしまったし、もちろん、子供は生まれないから、家庭に変化もない。異性に魅力を感じるという本能も衰退しているみたいだ。まあ、それはある意味、人間がウォーカロンに近づいている現象だね。両者が歩み寄っている。もう違いはないんだよ。それに、個人差というものがあって、そちらの方が、ずっと大きい。だから、人間の中のウォーカロンっぽい奴の方が、ウォーカロンの中の人間っぽい奴よりも、ずっとウォーカロンだろうね。


P152
新しい生命が誕生しない現実を前に、殺合いの無意味さはさらに大きくなった。エネルギィや食料の問題よりも、人類存続の方が優先となった。殺し合っている場合ではない。生きている者は、人間であっても、ウォーカロンであっても、協力し合う以外にない。その思想がもう長く、この社会を支配しているのだ。


P170
僕にとっては、人間だろうがウォーカロンだろうが、まったく無関係なのである。これは、もしかしたら、そのとおり今の現実なのではないか、と思えてきた。自分は、両者を見分ける方法を研究しているが、こんな研究をしなければならないことが、両者の差がいかに微々たるものかを証明しているのだ。(中略)同じ人格がこんなに長い時間存在することは、過去に例がない。多くの哲学者がその点について考えているはずだ。


P184
「今後は、このようなことがないように、強くお願いいたします。」
「酔っ払っていて、君が言ったことが良くわからなかった」
「もう一度言いましょうか?」
「いや、その必要はない。だいたいは、わかった」
「だいたいでは困ります」


P191
「逆に言えば、先生の研究は、両者の差を明らかにすることですから、その差をなくすためにも必要な知見なのでは?」
ウグイの口から、それが出たことに僕は驚いた。グラスの液体を全部喉に流し込んでから、椅子の背にもたれて上を見た。
「君は優秀だ」


P220
今の環境のまま、自分たちがずっと耐えられるのか、という不安がだんだん大きくなるだろう。次の世代に任せたい。自分は引退したいって、普通なら思う。昔はそうだったよね。それができなくなった。いつまでも現役だ。若者はいない。子供もいない。人間は減る一方。滅亡へ向かっているみたいな暗さなんだ。その滅亡さえ、自分が生きている間に起きて、自分の目で見なければならない。


P252
結局のところ、すべては、人の心がどう捉えるのか、という問題に帰着する。子供が生まれないとはどういうことか、生きているとはどういうことか、人間とは何なのか、そして、この社会は誰のものなのか……。(中略)暴力に訴えるのは、結局は思想や哲学が未熟だという証拠といえる。どんな思想、どんな哲学も、自由に主張して、議論をするべきだ。



【 さいごに 】


一番最後の引用がこの本のテーマのようです。
生命とは何か。人間だけに生命が与えられているのではありません。
動物にも植物にも生命はありますし、この物語の中では人間が生み出したウォーカロンも生命体なのです。
たったひとつの地球で複雑な感情をもつ生命体が共存するということ。それによって生じる問題。
そのようなことを考えさせられる内容になっていました。

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